200種類以上ある人と
動物の共通感染症
WHOの定義によると、「⼈と動物の共通感染症」とは「脊椎動物と⼈の間で⾃然に移⾏するすべての病気または感染(動物等では病気にならない場合もある)」とされています。1860年代にドイツの細胞病理学者フィルヒョウがつくった新語「ズーノーシス」から、「⼈獣共通感染症」「動物由来感染症」とも⾔われます。
WHOで確認されている⼈と動物の共通感染症はいま200種類以上あるといわれています。ウイルス、細菌、寄⽣⾍などを病原体とし、動物にかまれたり触れたりすることで感染する「直接伝播」と、蚊やダニなどが媒介となって感染する「間接伝播」の⼤きく2つに分けられます。直接伝播の感染症としては狂⽝病(ウイルス)、回⾍症(寄⽣⾍)などが挙げられます。間接伝播は動物から蚊やダニなどを介してうつる感染症、動物から排出された菌が⽔や⼟壌を介してうつる感染症、動物の⾁などを⾷べてうつる感染症に分けられ、ノロウイルス感染症(ウイルス)やサルモネラ症(細菌)、アニサキス症(寄⽣⾍)などがあります。
ウイルスを病原体とする
4つの感染症
新型コロナウイルス感染症
(COVID-19)
2019年12⽉に中国武漢市で原因不明の肺炎が発⽣し、2020年1⽉にその患者から新しいコロナウイルスが⾒つかりました。その後、このコロナウイルスの感染は世界中へ広がり、いまも発⽣が継続しています。コロナウイルスは沢⼭の種類が発⾒されており、これまでに流⾏したコロナウイルス感染症には「重症急性呼吸器症候群(SARS)」(2002年11⽉発⽣)や「中東呼吸器症候群(MERS)」(2012年12⽉発⽣)があります。
「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」の主な症状は、発熱、咳、倦怠感、味覚異常、肺炎、呼吸困難などで、感染者のくしゃみや咳による⾶沫感染、感染者との直接接触、または感染者の唾液などで汚染されたものを介して感染します。コウモリから中間宿主(センザンコウなどの野⽣動物といわれている)を媒介に⼈へ感染したと考えられています。新型コロナウイルスが⽝や猫に感染するという報告もありますが、新型コロナウイルス感染症が⼈と動物の共通感染症と断定するには、さらに詳しい検証や研究が必要だといわれています。
重症熱性⾎⼩板減少症候群
(SFTS)
「重症熱性⾎⼩板減少症候群(SFTS)」は2011年に中国で初めて特定されたSFTSウイルスによる⼈と動物の共通感染症です。⽇本では2013年1⽉にSFTSウイルスの感染者が初めて報告され、その後、⻄⽇本を中⼼に拡⼤し、2020年5⽉27⽇までに517⼈の感染者が報告されています。
SFTSウイルスは、多くの野⽣動物や⾎液を吸うマダニが保有しています。⼈への感染は主にSFTSウイルスを保有するマダニにかまれることによって起こりますが、野良猫にかまれた⼈や、発症した猫を診察した獣医師などの感染も報告されています。
感染すると6〜14⽇間の潜伏期間を経て、発熱や嘔吐、下痢、頭痛、筋⾁痛、神経症状などが現れ、重症になると⼩さなけがでも⾎がとまりにくくなったり、多臓器不全となったりして死亡することもあります。特に⾼齢者は重症化しやすいようです。感染予防はマダニかまれないようにすることです。感染者の発⽣は通年⾒られますが、特にマダニが活発に活動する春から秋にかけては注意が必要で、マダニが多く⽣息する草むらややぶなどに⼊る場合は、⻑袖、⻑ズボン、⾜を完全に覆う靴を着⽤して肌の露出を避けることが⼤切です。
新型インフルエンザ
インフルエンザウイルスは、⼤きくA型、B型、C型の3つに分けられます。冬季に⼈がかかるインフルエンザを「季節性インフルエンザ」といい、主にA型とB型のウイルスによって引き起こされます。中でも、A型ウイルスは⼈以外の動物にも分布している⼈と動物の共通感染症ウイルスで、NA(9種)、HA(16種)の2種類のタンパク質の組み合わせにより144の型に分類されます。
通常は同じ動物種の間で感染し、他の動物種のウイルスが⼈に感染することはまれです。これを「種のの壁」といいます。しかし、⼈に感染しなかった⿃などのウイルス遺伝⼦が変異したり、異なる動物種のウイルス遺伝⼦が混ざり合ったりすることで、種の壁を超えて⼈から⼈へ感染する新しいウイルスが現れることがあります。これが「新型インフルエンザ」です。新型インフルエンザウイルスは約10年から40年の周期で出現しています。このウイルスは、ほとんどの⼈がウイルスに対する免疫を持っていないため、誰もが感染しパンデミックを引き起こす恐れがあります。
症状と感染予防は季節性インフルエンザと同様で、発熱や咳、倦怠感、⿐⽔、のどの痛みなどの症状が⾒られ、感染予防はマスク着⽤、⼿洗い、咳エチケット、⼈混みを避けることです。
狂 犬 病
「狂⽝病」は⼈を含むすべての哺乳類が感染する⼈と動物の共通感染症で、4000年以上前に発⽣の記録があるといわれています。⼈は狂⽝病を発症した動物にかまれ、傷⼝から狂⽝病ウイルスが侵⼊して感染します。感染して1〜3ヵ⽉程度の潜伏期間を経ると、まひや幻覚などの神経症状が現れ、やがて昏睡状態となります。発症すると治療法がないため、ほぼ100%死に⾄ります。
⽇本でも以前は多くの⼈が狂⽝病によって命を落としていましたが、1950年に施⾏された狂⽝病予防法により撲滅に成功し、1957年以降の発⽣はありません。しかし、国外では年間5万⼈以上の死亡者が出ており、このうち3万⼈以上はアジア地域とされています。
国際交流が盛んないま、狂⽝病が⽇本に侵⼊してくる可能性はゼロとはいえません。約50年間発⽣がなかった台湾では2013年に野⽣動物などに狂⽝病の発⽣が確認されました。万が⼀、⽇本に狂⽝病が侵⼊した場合、その感染拡⼤防⽌のためにも、狂⽝病予防法で義務付けられた「⽝の登録」と「⽝への狂⽝病ワクチンの接種」を徹底することが重要です。